連載

レトロなフィンエアーのエアバスA320で飛ぶ、ヨーロッパ内国際線〜連載【パイロットが乗客に! マニアック搭乗記】

現役の機長が1人の乗客として海外エアラインのフライトに搭乗し、パイロットならではの専門的な視点でその模様を紹介する本連載。エアバスA320といえばneo型登場の影響もあって、比較的新しいイメージの機体だ。だがceo型の初飛行からは40年近くが経過しており、機齢の高い機体にはどこか懐かしい雰囲気を感じる。そんな“レトロA320”に乗って、距離と機種は日本国内線と同様ながら、れっきとした国際線であるヨーロッパ域内路線、ヘルシンキ→フランクフルト線に搭乗した。

文:Hide(ボーイング737機長) 写真:Hide
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霧のヘルシンキで、機齢23年のA320に搭乗

 今回は珍しく、フィンランドのヘルシンキからドイツのフランクフルトに飛行するフィンエアーのフライトをレポートします。EU圏内とはいえ国際線。日本でも現代ではナローボディー機の国際線は珍しくなくなりましたが、2000年代前半までは国際線といえばワイドボディー機が当たり前だった日本人からすると、少し面白く感じるところです。

 しかし外国人からすると、ワイドボディー機が頻繁に飛んでいる日本の国内線の姿こそ特異なものに映るのでしょう。一時期は当時世界最大のロングレンジャーであった747が、国内線専用機として何機も同時に見られたわけで、そんな時代を知る者にとって現在の日本国内線は寂しくも思えるのですが……。

さすが北欧の空港。シンプルかつスタイリッシュな内装は、木の温もりも感じられる開放的な空間を演出しています。

 そんなことを考えていると、すでにボーディングが開始。あまりしっかりとチケットを確認しないまま急いでゲートを通ろうとすると、弾かれてしまいました。ヘルシンキのゲートは完全自動で、日本のように係員はおらず、ボーディンググループ違いは勝手に弾くシステムが導入されているのです。少し恥ずかしい思いをしながら、自分のボーディンググループまで待機します。

 やっと搭乗が可能となり、無事にゲートを通過。搭乗機は見た目からしてとても古いエアバスA320です。ボーディング中はコクピットのドアが空いていて、日本では皆無とまでは言いませんがとても珍しい運用です。しかし外国ではむしろこれがスタンダード。少しコクピットを覗くと計器はCRTだし、通路を進むと機内も初期型の懐かしい仕様。こうしてみると、A320は長寿モデルであることを実感します。

見慣れたA320も、場所や会社が違うと新鮮に映ります。シャークレットもなく、エンジンも小さいオリジナルのA320を見る機会はこれから減っていくでしょう。

 外気温は15℃ほど。グランドパワーのみを接続していた模様ですが、機内温度は快適です。最近は駐機中のAPU使用の抑制が進められていて、このような運用はよく体験します。機内は日本と比べるとおしゃべりがよく聞こえる、和やかな雰囲気。客室乗務員もコーヒーを片手にリラックスした雰囲気です。無事に搭乗終了となり、ドアが閉まります。シートベルトサインはドアクローズしてからオンになりましたが、これも珍しいです。エアバスでは通常、燃料補給が完了してからシートベルトサインをONにする運用がされています。

 ドアクローズの後にコクピットアナウンス。定刻の出発予定であること、スムーズな気流であること、2時間20分のフライトであることなどが伝えられます。プッシュバックを開始したのを客室乗務員が確認したあとに、「Arm Doors」の指示。続いてセーフティデモが行なわれました。機内にディスプレイは1つもありませんので、客室乗務員による実演です。ちなみにヨーロッパ系の航空会社は客室乗務員の年に一度の保安訓練が特に厳しいと聞いています。保安要員として緊急事態に備えてこそ客室乗務員である、といわんばかりの自信が溢れるデモでした。

 外は霧。ヘルシンキに入った時より天気が悪くなっていますが、離陸の最低気象条件はギリギリといったところでしょうか。当日は視程200m、鉛直視程200フィートはかなりの悪条件です。

車でもあまり走りたくなくなるような霧の中、「こんな視程は日常茶飯事」とでも言いたげに、何の運航情報も付けずにオペレーションするところが欧州の会社らしいところです。

 タキシーアウトまでは5分ほどかかりましたが、少しでも視程の良い滑走路をチェックしていたのか、あるいはマイナートラブルだったのでしょうか。無事タキシーアウトすると、勝手知ったるホームベース空港ということもあるでしょう、かなりの低視程にもかかわらず速めのタキシースピードで迷いなく滑走路に向かって行ったのはさすがでした。もし自分なら、日本の空港でもかなり速度を落としてタキシーをしていたに違いありません。

 ちなみに離陸直前には、視程100m、鉛直視程も100フィートにそれぞれ悪化していました。着陸機はゴーアラウンドかダイバートしてもおかしくない天気です。

離陸後はすぐに雲の上、機内サービスはLCCのよう

 離陸するとすぐに快晴となるのは、地霧が出ている際によくあること。先ほどの暗い空港と対照的な青空が見え、キャビンの中はすっかり早朝の爽やかな空気の中のフライトに。
全く揺れることもなく、離陸後5分でシートベルトサインがオフとなりました。

 ヨーロッパの短距離路線ではよく見る光景ですが、ビジネスクラスとされる座席が客席前方に配置されてはいるものの、座席自体はエコノミーと全く同じ。初めて見たときは驚きましたが、ちょっとしたミールサービスのみでエコノミーと差別化を図っているようです。エコノミークラスとの価格差はどれくらいなのでしょうか? ちなみにフィンエアの短距離路線では、エコノミークラスの機内サービスはLCCのように簡素化されていて、「水やジュースはあげるけどその他コーヒーやスナックはお買い上げください」というスタンスになっています。

よくLCCの座席ポケットに入っているドリンクと軽食の冊子が、フィンエアーでも見られました。円安の今、日本人には非常に手を出し辛い価格になってしまいましたね。

 客室後方に行くと、最後尾にラバトリーが2つ装備されている仕様であることに驚きました。製造当時から装備されていたとは考えづらく、改修されたのでしょうか? この最後尾に2つのラバトリーが装備された仕様のA320ファミリーは、ぜひ体感されると面白いと思います。よくここに2つも作ったな、と思う広さ(狭さ)に驚かれることでしょう。

 ほとんどLCCと変わらない機内ではあるものの、トイレの手洗いの水が自動であるところや、ギャレーが若干大きいところがLCCとの違いといえばそうなのかもしれません。しかし、限りなくLCCに近いです。きっと料金体系や保証制度で差をつけ、機体にはあまりお金をかけないスタンスなのでしょう。昔ながらのA320のオリジナルキャビンに触れられる機会はこれから少なくなるので、個人的にはじっくり堪能させてもらいました。

以前ルフトハンザA340のレポートでもご紹介した、90年代のエアバスを代表する読書灯や座席表示のユニット。オーバーヘッドの収納も、持ち込みキャリーケースが多い今の時代となっては容量不足気味です。

 フライトは揺れもなく順調に降下を開始。着陸前にはかなり早めにギアを降ろしていました。通常では考えられないほどのタイミングの早さで、しかもスピードブレーキも併用していたことから、かなり速度が速かったか、高めにアプローチに入ってしまったことがうかがえます。ちなみにエアバスではギアを下ろすと非常口サインが点灯するので、わかりやすいです。
最終的にはかなり余裕を持ってパワーが入っていたので、安全な着陸にはもちろん問題はありませんでした。着陸後、フランクフルト空港ではリバースは基本的にアイドルを使用するよう規定されているらしく、主にブレーキで減速して滑走路を出ます。

 地上移動が長いからか、着陸後にエンジンを片方カット。A320ではシングルエンジンタキシーを実施する場合、必ずナンバー2エンジンをカットします。残るエンジンとともに必要なハイドロを加圧するため、ELECハイドロPUMPをオンにするのですが、その音が機内に響きます。しかし、残るエンジンはいっぱい吹かしてタキシーするので面白いです。

日本では見られない、機体後方からの降機の様子。確かに、機体の前後のドアをオープンすることで全員降機にかかる時間はかなり短くなり、インターバル短縮にとても効果的です。

 フランクフルトではスタンドオフベイ(オープンスポット)での降機となる旨、ブロックイン直前にコクピットからアナウンスがありました。この運用も大変珍しく、勉強になります。降機の際は前方および後方の2か所の扉にステップ車を装着しました。特に後方からの降機は日本人からすると珍しく、水平尾翼を間近に見ながらゆっくりと機体を後にします。

 今回は日本の国内線に限りなく近い運航ながら、客室の雰囲気やオペレーションの違いなど、ヨーロッパならではの魅力あふれるフライトとなりました。

まだまだ現役で活躍中のA340-300が普通に見られるのもフランクフルト空港ならでは。次回はこのルフトハンザの別の4発機、ボーイング747-400に搭乗します。

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