Scene2:自分のなりたいキャラクター
 
 
 
今回、キャラクターデザインを担当するのは、『フリクリ』でもコンビを組んだ貞本義行さん。貞本さんは、「トップ2」のためのキャラクターデザインの打ち合わせで「鶴巻の場合は、自分がなりたい男像を投影して男性キャラクターをつくろうとしているんじゃないか」と感じたと、この連載の第3章でおっしゃっていました。

そうかな? そういうわけでもないと思うんですけど(笑)。僕の「理想の男性像」は、むしろ女性キャラにこそ投影されているのではないでしょうか。庵野のように「素の自分」をそのまま投影するってことはないかもしれませんね。

鶴巻和哉氏インタビュー

「丸裸のおのれ自身をエンターテインメントとして燃焼する」というようなつくりかたではない……。

と、思いますね。僕の裸踊りでは芸にはならないですよ。もちろん自分の経験や感情を反映させてはいますけど、そのままでやることはないでしょう。少なくとも『フリクリ』('00)のように、橋の下で年上の女の子とイチャイチャしていたという体験はないですね(笑)。

鶴巻さんも絵が描ける。そうした絵描き同士の打ち合わせは面白いですね。絵が描けない人間が打ち合わせすると、どうしても「あの映画のあの役の感じを」など、抽象的なイメージを、他の具体的なイメージで伝えることになりがちですけど。
 
 
 
 

えの素えの素
『えの素』の登場人物、葛原さん。どんな難題でも淡々とこなすクールな人だが一度切れると悪魔のようになるサディスト。下の画像は衝撃の葛原さんの放尿シーン。掲載当時、「葛原さん放尿しないでっ」と、ファンは悲鳴を上げた。
 
いやいや。やっぱり、「あの映画のあの役者さん」というように、具体的なところから話をしていかないと伝わらないです。たとえば『フリクリ』に登場するハル子の場合は、そのスタートに『えの素』という漫画に登場する「葛原さん」があったんです。

『えの素』というと榎本俊二さんの漫画作品。

榎本さんの漫画は大好きで『GOLDEN LUCKY』も、全巻持っています。当初ハル子はイメージが伝えにくかったんですね。貞本さんも「年上で図々しい」ってあたりから「エヴァ」のミサトのようなキャラクターを想像したんじゃないでしょうか。僕の中では"騒々しい葛原さん"というイメージがあったので、「ミサトではないんです。もっとハチャメチャなんです!」とリクエストしたら「じゃあ声を新谷真弓がやるような感じ?」と来たんです。そのときはピンを来なかったんですけど、とにかくハチャメチャさを貞本さんに伝えるために「そのくらいのイメージです」と反応してしまった。結局、本当に、新谷さんに声をやってもらうことになったわけですけど。
 

えの素
 
モーニングKC『えの素』
榎本俊二氏が世界一ファンキーな親子を描くギャグ漫画。全9巻。クールなサディスト、放尿処女、鋼鉄チンコのおじいさん、変態王者など、一人として強烈でない登場人物はいないという驚愕の作品。初めて読んだ人は本当に驚く。
 
 
 
 

「普段は美人でクールなんだけど、すぐに暴力をふるう、わけのわかんない人」なんて、そんな説明じゃ伝わらないんですよね。新谷さんという声優さんを介することでようやくイメージを共有できた。その結果、当初より愉快な要素が入ってきて、あのキャラクターになったんです。

榎本さん自身もガイナックスを訪れたことがあるそうですが、摩砂雪さんをはじめ、ガイナックスには『えの素』を愛読している人が多くて驚きました。それはさておき、どちらも優秀な絵描きである場合、抽象的な言葉ではなく「ここはもっとこう」と絵にして具体的な領分でやりとりすることもあるのかと思っていました。

それをやってしまうと、一度描いたものから、離れられなくなるんです。こだわる必要なんてないのに、イメージがその絵に縛られてしまう。それが怖いんですね。貞本さんもそうなんじゃないかな? なかなか描きはじめないという印象です。監督の要求に近いところまで抽象的なイメージを固めて、初めて描き始めるんじゃないですかね。
 
 

フリクリ
 
鶴巻和哉氏、原案・監督作品『フリクリ』('00)のヒロイン。ハルハラハル子。星ひとつ吹き飛ばしてしまうことすらなんとも思わないハチャメチャな人。初登場場面で、主人公のナンダバナオ太をベスパでぶっ飛ばし、ギターでぶん殴る。