Scene1:押井監督とキャラクターの世界
 
 
 
日本のアニメーションが受けている理由は、日本人のつくり出すキャラクターがウケているからではないかと思うのですが。

僕はキャラクターのリメイクは何回か制作をやっていますけど、うまくいってないし、自分でオリジナルヒットキャラクターをつくったことはないので、あまりキャラクターについては、説得力を持って語れないですね。

渡辺さんが長らく組んで仕事をしている監督の押井守さんは、「うる星やつら」のようなキャラクターの魅力を満載した作品を手がける一方で、作中でキャラクターが存在しない情景の絵などに、大きな存在感を持たせたりもなさいますね。

渡辺繁氏インタビューやりますね。でもそれは作品の中できちんとキャラクターがいる世界をつくって、それを担保にしているからやれることですよ。そうでなきゃ、カウンター的なことだけをやっても理解されない。キャラクターがいる世界をきちんとつくって、それと陰と陽の関係でオリジナルなものを提示するから面白いんです。だから押井守さんが作品をつくっていく上で落とし穴があるとしたら、そこのバランスでしょう。素晴らしい能力を持った監督ですが、もし弱点があるとしたらそういうところかもしれない。

押井さんはルークとダースベーダーとの間を行き来する人ですから(笑)。一時期押井さんは、独占的にといってもいいぐらい、バンダイビジュアルの僕と鵜之澤とそれぞれ交替交替で組んで、いろんな作品をつくったわけですけど、鵜之澤と組んだ企画は「機動警察パトレイバー」などメジャー路線の作品になって、僕のほうは『ケルベロス/地獄の番犬』('91)とか、裏道街道を行く作品ばかりで(笑)。

鵜之澤というのは、僕と同期でバンダイに入った男です。入社一年目に「バンダイグループという企業はキャラクター版権を運用して利益を出している会社だから、我々も著作権に詳しくならないといかん」と考えて、毎週水曜日の朝8時、会社が始まる1時間前に、浅草の本社裏の喫茶店に集まって、著作権法の勉強会を開いていたことがあるんですよ。そこの場で面白いヤツだなと思っていました。僕がEMOTIONを始めた当時、'83年の末までは一人で頑張って設立したんですけど、さすがに宣伝から手形の回収までも一人でやっていると普通、死んじゃいますよね? そこで「このままやったら死にますので鵜之澤をください」と当時の会長や社長に直訴してまわって(笑)、ガンダムブームに沸いていたプラモデルのセクションから、映像事業のほうに来てもらったんです。以来、鵜之澤とは、彼がアップルコンピューターと組んだ、ピピン@アットマークというプロジェクトでバンダイビジュアルを離れるまで、十数年コンビを組んでやってきました。

EMOTIONレーベルのタイトルに出てくる二つのモアイ像は、「片方が渡辺さんで、もう片方が鵜之澤さん」という説も流れたくらい良いコンビネーションだったそうですね。ただメジャー路線と裏道街道といっても、作家にしてみれば「あの作品があったからこちらのヒット作をつくれた」ということもあるのではないでしょうか。

そういうこともあるでしょうね。「パトレイバー」は、押井さんが『天使のたまご』('85)をつくったおかげで仕事がなくなっていたから監督したと、言えるかもしれません。あのOVAシリーズは、最初、出渕裕さんとゆうきまさみさん、伊藤和典さん、高田明美さんの4人が「パトカーをロボットにしたアニメはつくれないか」と考えていて、そのアイディアをクリスマスパーティーの会場で聞いた鵜之澤が、その場で「やりましょう」と決めた作品だったんです。それから「監督は誰にしようか」と企画が進んで、鵜之澤が当時『天使のたまご』『紅い眼鏡』('87)の不振で仕事がなくなっていた押井さんを「これ1本30分、予算は1000万円しかないアニメだけどやりなよ」と口説いた。それが「パトレイバー」の始まりですよ。

「『天たま』やったおかげで何年か食えなかった」と、押井さんはっきり言っていますからね(笑)。だから押井さんにとって鵜之澤は救世主だったと僕は思いますよ。ただ軒先を貸すと母屋まで取っちゃうのが押井さんだから、最初は口説かれてようやく腰を上げたのに、いつの間にか「俺の作品だ」という感じで堂々とつくり始めるんです。「パトレイバー2」を観ているとそう、感じますよ(笑)。

やはり作家は、ときどき違う立場の人から「ええっ、それは全然、俺の世界じゃないよ」と驚くような企画を、思いきって提案されたりするのが良かったりすることもあるのでしょうね。とにかくまず、自分の一度つかんだ世界で作品をつくっていこうとするのは当然の本能でしょうし。

それは押井さんのことなんですけどね(笑)。ただ1回獲得すると、「それは俺のもんだ」という顔をして、どんどん広げていくのがあの人です。だからまわりで押井さんを内弁慶の出不精にしちゃまずいんですよ。あれほどまでに魅力を持った人なんですから。