00:00昔、あるところに風呂屋と医者が隣り合わせに住んでおりました。
00:21風呂屋は、それは毎日大繁盛でどんどん客がやってきました。
00:30一方医者のところは、誰一人来るものもなく空に困るほどでした。
00:39風呂屋のことがどうも面白くない医者の払いせといえば、夫婦して何としても隣の風呂屋に行かないことぐらいでした。
00:51同じ隣同士だと言うのに、何でこうも違うんじゃ。
01:00違うんじゃ。
01:02医者は、毎日悔しさで歯をギリギリ言わせながら、風呂屋に人が来る様子を見ておりました。
01:12おー、風呂屋が来るわい。
01:20ここは一丁、わしの出番じゃ。
01:23おー、風呂屋が引いてしまったわい。
01:27風呂屋はひとっぷり浴びて温まるに限らん。
01:30おやしいー。
01:35あんた、米蜜の中とうとう空っぽだよ。
01:40医者が飢え死にするなんて、洒落にもなりゃしないよ。
01:45なんとかしておくれよ、このごくつぶし。
01:50医者の女房は、そりゃあすごい感触持ちで。
01:55こればかりは、どんな薬を飲ませても、治りませんでした。
02:00ましてや、この医者はやぶで有名で、薬を渡せば、食うほど渡し。
02:08あと、薬を飲みすぎたときのえぐすりじゃ。
02:13子供が生まれるからと呼びに来られると、さんばさんを一緒に連れて行く。
02:19屋根から落ちた職人を見ては、めまいを起こして倒れる暇。
02:28こんなやぶ医者の女房では、感触持ちになるのは当たり前でした。
02:34その日の夜も、汁粥いっぱいだけの晩飯で、どうにも腹が減ってしょうがない。
02:45あんた、今頃隣の古屋は、さぞやご馳走だろうね。
03:04そりゃあそうじゃろう。あれだけ客が来れば、毎晩ご馳走を食っとるじゃろう。
03:11わしだって、ほうれん草としめじの煮びたしに、さわらの西京焼きと、菜の花のからし合い。
03:21それを魚に、山入れきょっと。うまそうじゃの。わたしは、風呂吹き大根に出汁をたっぷりとった卵焼き。
03:36それを置かずに、大盛りのどんぶり飯。
03:47どっちが口に出すでもなく、医者と女房はこそこそと、隣の風呂屋の晩飯を覗き込みました。
03:57ところが、風呂屋の晩飯は、ことのほかつつましいものでした。
04:07二人は、なんとなく部屋の中をきょろきょろ見回しましたが、
04:11床の間を見て、医者と女房は驚きました。
04:16床の間には、それはそれはたくさんのご馳走が備えられ、
04:21そこには、黄金の大黒様と恵比寿様が飾られていたのでした。
04:31風呂屋の夫婦は、食事が終わると、その大黒様と恵比寿様に向かって、
04:38一生懸命、手を合わせ始めました。
04:41毎日毎日、お客でいっぱいなのは、すべて大黒様、恵比寿様のおかげです。
04:47ありがとうございます。これからもよろしくお願いいたします。
05:00あれじゃもの、繁盛するはずじゃ。
05:03これ?
05:05監視しとる場合か、このバカたれが。
05:09うちも、あれと同じことをするんじゃ。
05:12同じことと言うても、うちには小金の大黒さんや、恵比寿さんなんぞ、ありゃせんぞ。
05:20なこったよ、知っとる。なかったら、持ってくればええだけの話じゃないか、このごくつぶし。
05:29盗んでこいってことか。いくらなんでも。
05:33隣の風呂屋が寝静まったのを確かめると、医者と女房は小金の大黒様と恵比寿様を持ち出そうと、こっそりと風呂屋に忍び込みました。
05:54中村の子は、飛び込みました。
05:55赤瀬屋に忍び込みました。
06:00飲み込みました。
06:05お、
06:08背に腹は変えられんとはいえ
06:24あんましいい気持ちはせんの
06:27そんなこと言うとるから
06:29貧乏医者だのやぶ医者だのと
06:32陰口叩かれるんじゃ
06:35確かに貧乏医者がやぶ医者じゃないぞ
06:43同じようなもんじゃ
06:46さっさと食わんと
06:48せっかくのご理想がなくなるぞい
06:52とりあえず食うことにするか
07:00食った食った
07:10とっとと商売繁盛のお祈りをするんじゃよ
07:15商売繁盛
07:17さかもってこい
07:19お願いします
07:20やっぱしちゃんと隣に話して借りてきた方がよかったの
07:27なに
07:30黙っとりゃ分かりゃせんがな
07:33なんじゃか気が重いの
07:37なにをごちゃごちゃ言うとるんじゃ
07:41でもな
07:44急病忍者
07:50早く開けてくれ
07:53急病忍者
07:55きたよ
07:57すごい効き目じゃ
07:59客じゃ客じゃ
08:01銭は急げじゃ
08:03こりゃ大した服の神じゃ
08:06しっかりお稼ぎよ
08:13それ行け
08:15急病忍者
08:16あらよ
08:17あらよ
08:18医者はどこに行くのか行く先を聞きもせず
08:22籠を走らせました
08:24どのぐらい走りたか
08:35いきなり籠がどしんと地面に落ちました
08:43折りはぎじゃ
08:45折りはぎじゃ
08:47折りはぎだ
09:02どうしたんだお前さん
09:05老いはぎにおうて
09:07めぐるみ離されて
09:08いのちからがらにげてきたんだ
09:11へえ
09:13なにが
09:14この紙じゃこんなもん、粉々にしてお金に返ってしまおう。
09:19そうしてしまおう。
09:33おい。
09:34こりゃ。
09:35え?
09:36大黒さんと恵比寿さんが口を聞き寄った。
09:41そんなに驚かんでもいい。わしらは神様じゃ。
09:47それより、お前が裸にされるのは無理なかろう?
09:53どうして?
09:55わしらはもともと風呂屋の服の神じゃでな。
10:00人を裸にするのが商売じゃ。
10:05風呂屋の神様。
10:12人を裸にするのが商売。
10:16そりゃ、そうじゃ。
10:19女房はヘナヘナと腰が抜けたように座り込み、医者はそのまますっかり風邪をひいて、寝込んでしまったということです。
10:36ご視聴ありがとうございました。
10:37ご視聴ありがとうございました。